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講義風景

『東北大学五十年史 下』p1200から。

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久保教授の退官後、その任に就いた河野与一は、これに先立って昭和二年三月本学助教授に任ぜられ、仏文学および古典語を担当していたが、同十七年七月から哲学第一講座(当時)に所属する哲学及び古典語を講じた。その後昭和二十一年七月教授に任ぜられ、久保教授の後を継いで、古代中世哲学史を担当するにいたった。

河野教授は、講義や演習において、プラトン、アリストテレス、またホーマー、キケロを講じ、ストア、エピクテトスを説き、さらにデカルト、パスカル、ライプニッツ、ベルグソン、ヴァレリイ等を論じた。それらの講義で、生々とした生活の場から生まれてきた哲学が、いつか笑を忘れて堅苦しい姿態だけとなった所以のものを、心理と言語と論理との結びつきの問題の中に見て、それを平明な密度の高い表現と、多数の資料と文献の引用によって講説し、その清新な学風は聴講者を魅了した。

論文に「プラトーン」(岩波講座世界思潮)「アウグスティーヌス」(同)「デカルト」(同)がある外、哲学、文学、芸術一般にわたって多くの翻訳がされている。哲学関係のものとしては、ライプニッツ「形而上学叙説」(大正十四年岩波書店)「単子論」(昭和三年同)ブロシャール「プラトン哲学における生成」(同四年同)ルトスワフスキ「プラトン対話編年代決定の新方法」(同四年同)その外ベルグソンの翻訳等多数がある。

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きっと、細かく調べたことが次々と出てくる面白い講義だったのでしょう。他の研究者のパッチワークと言ってしまえばそれまでですが、パッチワークをしながら大きな流れを分かりやすく捉えさせようとする視点があったのだと推測されます。

それにしても「平明な密度の高い表現」という言い回しの見事さに驚きます。『東北大学百年史』のほうも読んでみたのですが、面白いところ新しいところはさっぱり見あたらず、『五十年史』のほうが時代が近く文章にも躍動感を感じます。

河野與一くらいの世代になるともう一次情報は出てこなくなるのでしょう。今のうちに、生前に交際のあった方々の言葉を聴いておきたいものです。
by essentia | 2010-07-26 22:49 | 河野與一と河野与一
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